服には二つの寿命がある──物理的耐久性と感情的耐久性
Written by Kenji Tanaka
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サステナブルファッションについて語るとき、まず思い浮かぶのは何でしょうか。
オーガニックコットン、リサイクル素材、再生繊維、環境負荷を抑えた素材。そして、丈夫な生地や丁寧な縫製、長く使える耐久性。
近年のファッションでは、何から作られているか、そしてどれだけ長く使えるかが、サステナビリティを考えるうえで重要な基準になっています。
もちろん、素材も耐久性も重要です。
しかし、それだけで服の持続可能性を語ることはできるのでしょうか。
どれだけ環境に配慮した素材を使い、どれだけ丈夫に作られた服でも、長く着てもらえなければ、その持続可能性には限界があります。
では、服を本当に長く使ってもらうためには、何が必要なのでしょうか。
その答えを考えるために、服には二つの「寿命」があると考えてみたいと思います。
物理的な耐久性
まず一つ目は、私たちが一般的に考える「耐久性」です。
生地がどれだけ長く使用できるか。縫製がどれだけ着用に耐えられるか。日常の動きや摩擦などにどれだけ耐えられるか。
テーラリングにおいても、良質な素材と適切な仕立てによって、一着を長く着ることは昔から大切にされてきました。
しかし、ここで一つの問題があります。
服は、壊れたときにだけ寿命を迎えるわけではありません。
まだ十分に着られる状態でも、着なくなってしまうことがあります。
Emotional Durability──感情的な耐久性
そこで考えたいのが、もう一つの寿命です。
ここでは、それを**Emotional Durability(感情的な耐久性)**と呼びます。
これは、単に「その服が好きかどうか」という話ではありません。着たときの安心感、自分の身体に合っている感覚、自分らしいと思えるシルエット、生活やスタイルとの相性、そして、その服とともに過ごした時間や記憶なども含まれます。
例えば、袖口が擦れていたり、生地に長年の着用による使用感がはっきり現れていたりするジャケット。あるいは、何年も着続けてすっかりくたびれたスーツ。
客観的に見れば、そろそろ手放してもおかしくない状態かもしれません。それでも、着たときの感覚や、自分らしいと思えるシルエット、そしてその服とともに過ごしてきた時間や記憶があると、簡単には手放せなくなります。
新品の頃よりも傷みが増え、見た目にはむしろ価値が失われているように見える。それでも、その人にとっての価値は失われていない。
それは、服の「物理的な寿命」とは別に、「感情的な寿命」が存在することを示しているのかもしれません。
この考え方はファッションだけのものではありません。デザインの分野では、製品との関係を長く保つための考え方として、Emotionally Durable Designという概念も議論されています。
丈夫なのに、長く使われない服
例えば、リサイクル素材を使用し、環境への配慮を考えて作られたスーツがあるとします。生地も丈夫で、仕立ても丁寧です。
しかし、着る人の身体に合っていない。シルエットが本人の好みではない。普段の生活に合わない。着ていく場所がほとんどない。
その結果、クローゼットに長く残ったままになるかもしれません。
これは、サステナブルな素材そのものに意味がないという話ではありません。素材の選択は重要です。
ただし、素材の持続可能性と、服そのものが長く使われることは、同じ問題ではありません。
どれだけ環境に配慮した素材で作られていても、実際に長く着てもらえなければ、その環境上のメリットは限定的です。
服は物理的に壊れたときだけではなく、着る理由を失ったときにも、その寿命を終えるからです。
「長く着たい」と思える服
では、どうすれば服は長く着てもらえるのでしょうか。
そこには、サイズだけではなく、フィット、プロポーション、着心地、スタイル、そしてその人の生活との関係があります。
テーラリングが興味深いのは、一着の服を「誰にでも向けた商品」から始めるのではなく、まず一人の人間から始めることです。
身体の特徴、好み、仕事、生活、着る場所、必要とする機能。そうした要素を考えながら服を作ることで、その服は単なる衣服ではなく、その人のための一着になっていきます。
そして、身体に合い、自分らしく感じられ、生活の中で自然に選ばれるようになれば、着る回数も時間も増えていきます。
服と人との関係が長くなること。それも、服の寿命を延ばす一つの方法なのではないでしょうか。
タイムレスとは、無個性ということではない
長く着られる服について語ると、「タイムレス」という言葉もよく使われます。
しかし、タイムレスとは、単にクラシックで保守的な服や、無個性な服を意味するわけではありません。
重要なのは、一時的なトレンドだけに依存していないことです。
ネイビーのスーツ、グレーのジャケット、白いシャツ、クラシックなトラウザーズ。こうした服は、時代の変化に対する耐久性が高いと言えます。
同時に、タイムレスであることと個性を持つことは両立します。
色、素材、シルエット、ディテール、そして着る人自身のスタイルによって、一着はその人らしいものになります。
トレンドが終わった瞬間に価値を失う服ではなく、時間が経つほど自分との関係が深くなる服。
それが、Emotional Durabilityを持つ服の一つの形なのかもしれません。
服の寿命をもう一度考える
サステナブルファッションを考えるとき、私たちは「何で作られているか」を考えます。
そして、「どれだけ長く使えるか」も考えます。
これらは、もちろん重要です。
しかし、その先にもう一つ、「どれだけ長く着たいと思えるか」という問いがあります。
服の**Physical Durability(物理的耐久性)**は、生地や縫製、構造によって支えられます。
一方、**Emotional Durability(感情的耐久性)**には、フィット、着心地、スタイル、個性、生活との相性、そして記憶が関わっています。
サステナブルな素材を選ぶことは、その一つの方法です。
丈夫な服を作ることも、その一つです。
そして、長く選ばれ続ける服を作ることもまた、持続可能性を考えるうえで重要な視点なのではないでしょうか。
長く着られる服とは、単に長く残る服ではありません。
長く選ばれ続ける服です。
服を本当に長く使うということは、素材や製造方法だけではなく、服と人との関係を長くすることでもあるのです。