スーツの「ドロップ」とは?
Written by Kenji Tanaka
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スーツのサイズ表を見ると、「Drop 6」や「Drop 8」といった表記を目にすることがあります。
この「ドロップ」という数字は、スーツのシルエットを表しているように思えるかもしれません。実際、ドロップが大きくなるほど、一般的にはジャケットのウエストが細く、パンツも細いスーツになります。
しかし、ドロップそのものが「ジャケットのウエストをどれだけ絞っているか」を表しているわけではありません。
では、ドロップとは何なのでしょうか。
スーツの中に隠された数字
既製スーツでは、ジャケットとパンツを自由に組み合わせるのではなく、一定のルールに従ってセットにします。
たとえば、Drop 6のスーツでジャケットサイズが40の場合、
40 − 6 = 34
となり、パンツは34という組み合わせになります。
つまり、「40のスーツ」という表示は、単にジャケットのサイズだけを意味しているわけではありません。そこには、ジャケット40 + パンツ34という組み合わせが隠れています。
この「6」がDropです。
Drop 8なら、
40 − 8 = 32
Drop 4なら、
40 − 4 = 36
というように、ドロップが大きくなるほど、ジャケットに対して細いパンツが組み合わされます。
Dropはウエストシェイプそのものではない
ここは誤解されやすいところです。
世間一般的に、**「Drop = ジャケットのウエストシェイプ」**と考えるのは正確ではありません。
Drop 6だからといって、「ジャケットのウエストを6だけ絞っている」という意味ではありません。
ドロップは基本的に、胸まわりと胴まわりの差から見た身体のプロポーションを表す考え方です。英語圏の既製スーツでは、この差をインチで表すことが多く、**ジャケットの胸囲とパンツのウエストの差が6インチなら「Drop 6」**と呼びます。
そして既製スーツでは、そのプロポーションがジャケットとパンツのサイズ差として反映されます。
ただし、既製スーツではジャケットとパンツをひとつのセットとして設計するため、ドロップは実際のジャケットのシルエットにも影響します。
たとえば、
- Drop 8 → より細いパンツとの組み合わせ
- Drop 6 → 標準的な組み合わせ
- Drop 4 → より大きめのパンツとの組み合わせ
となります。
そのため、一般的にはDropが大きいほどジャケットのウエストシェイプも強くなり、Dropが小さいほどウエストシェイプは弱くなる傾向があります。
つまり、**Dropそのものがウエストシェイプを測る数字ではない。**しかし、Dropの設定によって、結果としてジャケットのシルエットも変わる。
この二つは分けて考える必要があります。
なぜジャケットとパンツのサイズを分けるのか
男性の身体は、胸まわり、ウエスト、ヒップが同じ寸法ではありません。
ジャケットは主に胸まわりを基準にサイズを決めます。一方、パンツはウエストやヒップを基準にします。
そこで既製品のスーツでは、身体の標準的なプロポーションをもとに、ジャケットとパンツのサイズを組み合わせます。
Dropは、そのためのひとつの考え方です。
既製服とは、いわば人間の身体をいくつかの標準的なプロポーションに分類し、その中から近いものを選ぶ仕組みでもあります。
日本の既製スーツにある「Y体・A体・AB体・BB体」
日本の既製スーツを見ると、「Y体」「A体」「AB体」「BB体」といった表記があります。
これはDropとは別の考え方です。
日本の既製服では、**JIS(日本産業規格)**に基づく成人男子用衣料サイズの考え方があり、身長や胸囲だけでなく、胸囲と胴囲などの身体寸法の関係から、標準的な体型を区分しています。
一般的には、
- Y体:細身体型
- A体:標準的な体型
- AB体:やや大きめの体型
- BB体:大きめの体型
という区分で考えられます。
つまり、日本の既製スーツでは、単純に「身長」と「胸囲」だけでサイズを決めるのではなく、身体のプロポーションそのものをサイズ体系の中に組み込んでいるわけです。
ただし、A体・AB体・BB体などの体型区分とDropは同じものではありません。
体型区分は、身体全体のプロポーションを分類するもの。Dropは、胸まわりと胴まわりの差から見たプロポーションを表す考え方です。
両者は関連していますが、異なる仕組みです。
コロンビアでよくある「ヒップが大きい」ケース
コロンビアでお客様の身体を採寸していると、既製スーツの標準的なプロポーションでは対応しにくいケースがよくあります。
その一例が、胸まわりに対してヒップが大きい体型です。
たとえば、胸まわりに合わせるとジャケットは40でちょうどいい。しかし、Drop 6の標準的な組み合わせでは、パンツは34になります。
ところが、そのお客様には34ではヒップが足りない。そこでパンツを36や38に上げると、今度はジャケットまで大きくなってしまいます。
つまり、**ジャケットは40で合っている。しかし、そのジャケットに標準的に組み合わされるパンツではヒップが合わない。**ということが起こります。
これは身体に問題があるのではありません。
既製服が想定している標準的なプロポーションと、その人自身のプロポーションが一致していないということです。
パンツのサイズを上げればヒップは入るかもしれません。しかし、ウエストや太もも、膝、裾幅、更にジャケットまで大きくなってしまいます。
既製服では、このように一つの寸法を合わせるために、別の部分までサイズを変更せざるを得ないことがあります。
オーダーでは「Drop」から身体を解放できる
オーダーメイドでは、既製スーツのように「ジャケット40ならパンツ34」という固定された組み合わせに身体を合わせる必要はありません。
胸まわり、ウエスト、ヒップ、太もも、股上など、それぞれの寸法を確認し、身体のプロポーションに合わせて設計できます。
胸に対してヒップが大きい。ウエストに対してヒップが大きい。あるいは、その反対。
どのような身体のバランスであっても、ジャケットとパンツを別々に考えながら、一着のスーツとしてつなげていくことができます。
ここに、既製服とテーラリングの大きな違いがあります。
既製服では、身体をサイズに合わせる。
オーダーでは、サイズを身体に合わせる。
Dropという数字を知ると、既製スーツがどのように身体を分類し、ジャケットとパンツを組み合わせているのかが見えてきます。
スーツに隠された「6」
スーツを着ているとき、Dropという数字は目に見えません。
しかし、ジャケット40とパンツ34という組み合わせの中には、「6」という数字が隠れています。
それは単なる数字ではありません。
既製服が想定する身体のプロポーションを、ひとつのルールに置き換えた数字です。
だからこそ、スーツのサイズを見るとき、ジャケットの数字だけを見るのではなく、**「このジャケットには、なぜこのパンツが組み合わされているのか」**と考えてみると、既製服の設計そのものが見えてきます。
そして、その標準から外れた身体に出会ったとき、テーラリングがなぜ必要なのかも見えてきます。
一着のスーツには、目に見えない「身体の設計図」が隠されています。