肩パッドは本当に悪者なのか?

肩パッドは本当に悪者なのか?

近年のメンズウェアでは、「ソフトテーラリング」や「ナチュラルショルダー」が大きなトレンドとなっています。

しかし、「ナチュラルショルダー=肩パッドが入っていない」というわけではありません。実際には、多くの高品質なジャケットで、ごく薄い肩パッドやフェルトを使用し、構築的に見せることなく、美しく自然な肩のラインを作り出しています。

では、本当に肩パッドは「時代遅れ」で「不要なもの」なのでしょうか。

実際のところ、肩パッドは肩を大きく見せるためだけに存在するものではありません。本来は、ジャケットを美しく着せるために欠かせない構造部材のひとつです。

現在では、肩の構築感を抑えた軽やかなジャケットが人気ですが、それがすべての体型、すべての仕立てに最適というわけではありません。

(極薄の肩パッド)

なぜ肩パッドは存在するのか?

肩パッドの目的は、肩幅を大きく見せることではありません。

本来の役割は、肩から胸へと続くラインを滑らかにつなぎ、生地を自然に落とすことにあります。

人の肩は想像以上に複雑です。

  • なで肩の人
  • 怒り肩の人
  • 左右で肩の高さが異なる人
  • 筋肉の付き方が左右で違う人

同じ肩は一つとしてありません。

こうした違いを考慮せず、生地をそのまま肩に乗せるだけでは、

  • シワが生じる
  • 襟が浮く
  • 肩がつぶれて見える

といった問題が起こることがあります。

肩パッドは、それらを補正し、ジャケット全体のシルエットを美しく整えるための土台となるものです。

つまり、肩パッドは肩を誇張するためではなく、ジャケット本来の性能を引き出すための構造部材なのです。

(極薄の肩パッド入りのブレザー)

肩パッドが効果的な体型

「肩パッドは不要」という考え方は、理想的な体型を前提としている場合があります。

しかし実際には、少量の肩パッドによって大きくフィットが改善される人は少なくありません。

なで肩

最も効果が現れやすい体型です。

薄い肩パッドを入れることで、生地が自然に落ち、美しい肩のラインを作ることができます。見た目が硬くなることもありません。

肩幅が狭い体型

肩パッドは肩幅を広く見せるためではなく、肩と胸のバランスを整え、全体のプロポーションを美しく見せる役割を果たします。

左右の肩の高さが異なる体型

人間の肩は、多かれ少なかれ左右差があります。

ビスポークはもちろん、高品質なオーダーメイドでも、左右で異なる厚みの肩パッドを使用し、肩の高さを補正することは珍しくありません。

猫背・前肩

肩パッドは肩線だけに影響するものではありません。

適切に設計された肩パッドは、襟の収まりを改善し、前身頃の引きつれやシワを軽減する効果もあります。

(肩パッド入りの着物ブレザー)

構築感を抑えた仕立てが向いている人

もちろん、肩の構築感が少ないジャケットが非常によく似合う人もいます。

肩のバランスが良く、姿勢が整い、体型のプロポーションが安定している人は、軽い仕立てのジャケットでも美しく着こなすことができます。

これが、イタリアのソフトテーラリングが高く評価される理由の一つでもあります。

しかし、その仕立てがすべての人に同じ結果をもたらすわけではありません。

テーラリングには「万人に共通する正解」は存在しないのです。

(ナチュラルショルダーのブレザー)

英国・イタリア・日本、それぞれの考え方

肩の作りは、それぞれの国の歴史や美意識、そして平均的な体型の違いを反映しています。

英国

英国のテーラリングは、伝統的に構築的なシルエットを重視してきました。

軍服や乗馬服の影響を受け、力強く整った肩と立体的な胸のラインが理想とされています。

肩パッドは、毛芯や胸増しとともに、ジャケット全体の構造を作り上げる重要な要素です。

イタリア

イタリアのテーラリングは、軽さと柔らかさを特徴としています。

特にナポリでは、肩パッドを極力薄くしたり、外見上はほとんど存在を感じさせない仕立てが一般的です。

しかし、「薄い」ことと「存在しない」ことは同じではありません。

多くのナポリ仕立てでも、フェルトや極薄の肩パッドを用いて、自然な肩のラインと美しいバランスを実現しています。

日本

日本のテーラリングは、英国とイタリアの両方の影響を受けています。

かつては英国調の構築的な仕立てが主流でしたが、現在ではイタリアの柔らかなスタイルを好む人が増えています。

一方で、日本人には、なで肩や華奢な体型の方も多く見られます。

そのため、多くの日本のテーラーは、見た目には柔らかく自然な印象を保ちながら、内部には薄い肩パッドやフェルトを用いて、美しいフィットを実現しています。


「肩パッドがない=高品質」という誤解

近年では、「肩パッドのないジャケットほど高級である」という考え方を耳にすることがあります。

しかし、品質の良し悪しは、肩パッドの有無だけで決まるものではありません。

優れたテーラーは、まず着用者の体型を観察し、その人に必要な肩の構造を判断します。

肩パッドが不要な人もいます。

一方で、わずか数ミリの肩パッドを入れるだけで、フィット感やシルエットが劇的に改善する人もいます。

重要なのは、「肩パッドが入っているかどうか」ではありません。

その人に適した肩パッドが選ばれているかどうかなのです。

(肩パッド無しリネンブレザー)

まとめ

肩パッドは、クラシックな時代の名残ではありません。

現在でも、ジャケットのバランスを整え、美しいフィットと自然なドレープを生み出すための重要な構造部材です。

ソフトテーラリングやナチュラルショルダーが主流となった今だからこそ、「肩パッドをなくすこと」が重要なのではなく、必要な人に、必要な分だけ適切に使うことが、本当に優れたテーラリングと言えるでしょう。

優れたジャケットは、構築感の強さで決まるものではありません。

その構造が、着る人の体型にどれだけ自然に調和しているかによって決まるのです。

テーラリングにおいて、最良の肩パッドとは、「その人にとって必要な肩パッド」にほかなりません。

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